4 生活
「たまにはつくもちゃんの話も聞かせてよ」
大人しく本を読んでいたはずのうさぎが、いつの間にか隣に座り込んで、私の顔を見上げていた。うさぎの言動はいつも突然である。
「別に……面白い話なんてひとつもないんだけど。ていうかあんた達は月から私のこと見えてたんだから、全部知ってるでしょ」
「そんなことないし、そうだとしても構わないよ。つくもちゃんのこと月から見てたって言っても、基本家にいるところしかみてないしさ。僕はつくもちゃんの話すつくもちゃんの話が聞きたいな〜」
引く気はないらしい。うさぎは勝手だ。まぁうさぎがうさぎであることは真実であるし、畜生に人のことを考えろと言っても無駄ということだろう。
「話すにしても、何を話せばいいの?」
「そうだねえ……」
わざとらしく、おおげさに首を捻るうさぎ。動きに合わせて、ツインテールが揺れる。
「つくもちゃんは友達いる?」
「いない」
「なんでいないの?」
「いらないから」
「なんでいらないの?」
「必要性がないから」
「なんで必要性がないの?」
「関わりがないから」
「なんで関わりがないの?」
「……学校に行ってないから」
「つくもちゃんはどうして学校に行かないの?」
最初からそう聞けばいいのに、囲いこんで答えを求めてくるな。うさぎの仕事を辞めて、牧羊犬にでもなった方がいいと思う。
「ごめんね。つくもちゃんって、今の夏休みだろう期間じゃなくても、いつ覗いても家にいたからさ。なんでだろうって思ってて」
さすがにうさぎでも思うところがあったのか、補足をいれてくる。いつも覗かれてるほうが普通に嫌なんだけど。
「別に聞かれて困ることはないけど、答えることもないよ。なんか……飽きちゃっただけ」
「学校に?」
「学校というか、生活に。みんな同じ生活で、それに駄目とか嫌とかは思わないけど、私はいいかなって、感じて」
「なるほど……」
また髪を揺らすけど、今度はあまりわざとらしさがない。今の表情だけ見ると、かしこそうなうさぎだ。
「だから、つくもちゃんは月に来ちゃったのかな。信じるものは救われるし、病は気からだし、月もうさぎも、多分そう。最初から存在を疑う人間は、月と繋がることはできないから。恐らくだけどね」
月もうさぎも、理論とか何もわからないけど。うさぎ本人がそういうなら、そうなんじゃないだろうか。本人? 本うさぎ?
「ねえ」
うさぎは急に身を乗り出し、ぐっと顔を近づけ、私の目を見る。その動物的な動作に、うさぎが人間でないことを、思い出される。
「実際どう? 月に行ったり、うさぎと過ごしたりして。多分みんなと同じ生活ではなくなったけど、つくもちゃんは今どう思ってるの?」
「え」
それは予測してない質問だった。たしかに、月に行ったのも、うさぎと過ごしているのも、事実らしい。しかし、他人に肯定してもらえるような証拠はないし、全て気の狂った私の夢と言われたって否定できない。そもそも肯定してくれる他人もいないけど。とにかく、だから、この一連の出来事を深く考えたことはなかった。
「……それは、わかんない」
「ふうん」
聞いといて反応が浅い。薄情なうさぎだ。
それでも返答に満足はしたのか、うさぎは身体を元の位置へと戻し、いつも通り笑った。
「まぁ、それならいいや」
『いいや』が何を意味するのかはわからないが、とりあえず私への質問タイムは終了したらしい。私がそう認識するよりも先に、うさぎは読書へと戻っている。勝手なうさぎだ。
残されたのは、重い課題を与えられた私だけだ。私はそろそろ、うさぎのいつもの笑顔が愛想笑いであると気づきつつある。
大人しく本を読んでいたはずのうさぎが、いつの間にか隣に座り込んで、私の顔を見上げていた。うさぎの言動はいつも突然である。
「別に……面白い話なんてひとつもないんだけど。ていうかあんた達は月から私のこと見えてたんだから、全部知ってるでしょ」
「そんなことないし、そうだとしても構わないよ。つくもちゃんのこと月から見てたって言っても、基本家にいるところしかみてないしさ。僕はつくもちゃんの話すつくもちゃんの話が聞きたいな〜」
引く気はないらしい。うさぎは勝手だ。まぁうさぎがうさぎであることは真実であるし、畜生に人のことを考えろと言っても無駄ということだろう。
「話すにしても、何を話せばいいの?」
「そうだねえ……」
わざとらしく、おおげさに首を捻るうさぎ。動きに合わせて、ツインテールが揺れる。
「つくもちゃんは友達いる?」
「いない」
「なんでいないの?」
「いらないから」
「なんでいらないの?」
「必要性がないから」
「なんで必要性がないの?」
「関わりがないから」
「なんで関わりがないの?」
「……学校に行ってないから」
「つくもちゃんはどうして学校に行かないの?」
最初からそう聞けばいいのに、囲いこんで答えを求めてくるな。うさぎの仕事を辞めて、牧羊犬にでもなった方がいいと思う。
「ごめんね。つくもちゃんって、今の夏休みだろう期間じゃなくても、いつ覗いても家にいたからさ。なんでだろうって思ってて」
さすがにうさぎでも思うところがあったのか、補足をいれてくる。いつも覗かれてるほうが普通に嫌なんだけど。
「別に聞かれて困ることはないけど、答えることもないよ。なんか……飽きちゃっただけ」
「学校に?」
「学校というか、生活に。みんな同じ生活で、それに駄目とか嫌とかは思わないけど、私はいいかなって、感じて」
「なるほど……」
また髪を揺らすけど、今度はあまりわざとらしさがない。今の表情だけ見ると、かしこそうなうさぎだ。
「だから、つくもちゃんは月に来ちゃったのかな。信じるものは救われるし、病は気からだし、月もうさぎも、多分そう。最初から存在を疑う人間は、月と繋がることはできないから。恐らくだけどね」
月もうさぎも、理論とか何もわからないけど。うさぎ本人がそういうなら、そうなんじゃないだろうか。本人? 本うさぎ?
「ねえ」
うさぎは急に身を乗り出し、ぐっと顔を近づけ、私の目を見る。その動物的な動作に、うさぎが人間でないことを、思い出される。
「実際どう? 月に行ったり、うさぎと過ごしたりして。多分みんなと同じ生活ではなくなったけど、つくもちゃんは今どう思ってるの?」
「え」
それは予測してない質問だった。たしかに、月に行ったのも、うさぎと過ごしているのも、事実らしい。しかし、他人に肯定してもらえるような証拠はないし、全て気の狂った私の夢と言われたって否定できない。そもそも肯定してくれる他人もいないけど。とにかく、だから、この一連の出来事を深く考えたことはなかった。
「……それは、わかんない」
「ふうん」
聞いといて反応が浅い。薄情なうさぎだ。
それでも返答に満足はしたのか、うさぎは身体を元の位置へと戻し、いつも通り笑った。
「まぁ、それならいいや」
『いいや』が何を意味するのかはわからないが、とりあえず私への質問タイムは終了したらしい。私がそう認識するよりも先に、うさぎは読書へと戻っている。勝手なうさぎだ。
残されたのは、重い課題を与えられた私だけだ。私はそろそろ、うさぎのいつもの笑顔が愛想笑いであると気づきつつある。
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